長時間労働が、健康被害や精神障害など、さまざまな弊害を呼び起こしうる深刻な問題であることはよく知られているところでしょう。
月250時間もの労働は原則として違法であり、いわゆる「過労死」ラインに達している可能性があります。
今回は
- 月250時間労働が違法となる可能性
- いわゆる「過労死ライン」の概要とリスク
- 長時間労働の対処法
について解説していきます。
月250時間労働は法律の上限に違反しない?
まず、法定労働時間の意義や、36協定における時間外労働の上限について解説します。
(1)法律上における1ヶ月の労働時間の上限
法律上の労働時間の上限は「原則1日8時間・週40時間」とされており、これは、労働基準法第32条で定められているものです。
この上限時間のことを「法定労働時間」と呼んでいます。
1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
引用:労働基準法第32条
ただし、法定労働時間は、「日・週単位」でのみ定められています。
そのため、月あたりの労働時間の上限目安は、原則として「40時間×1ヶ月の日数÷7日」で計算することによって求められます。
これによると、2月のように1ヶ月が28日の月は、「40×28÷7=160」ということで、160時間が月あたりの労働時間の上限目安となります。
同じように、1ヶ月が30日の月は171.4時間、31日の月は177.1時間ということになります。
この法定労働時間を超えた残業は、原則として労働基準法に違反していることになります。
ただし、いわゆる「36協定」(サブロク協定)を締結して届け出ると、一定時間までは法定労働時間を超えても、時間外労働が適法なります。
(2)36協定(一般条項)における労働時間の上限
「36協定」とは、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を労働者にさせる場合に必要な労使協定のことをいいます。
労働基準法第36条に規定されているため、このように呼ばれています。
使用者が労働者との間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出れば、36協定で定めた基準を超えない範囲の時間外労働又は休日労働を労働者にさせることができるようになります。
そして、36協定によって定めることができる時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間まで(休日労働は除く)とされています(労働基準法第36条4項 一般条項 ※現在のところ一部の業種では上限が規制されていません)。
しかし、36協定の一般条項を締結しても、月250時間の労働をした場合、1ヶ月あたりの時間外労働は、31日の月でも約73時間、28日の月だと90時間ということになり、いずれも月45時間の上限を超えるため、原則として労働基準法違反のままです。
(3)特別条項付き36協定の場合
もっとも、臨時的な特別な事情がある場合、「特別条項付き」の36協定を締結することができます。特別条項付き36協定を締結している場合、時間外労働の上限時間は一般条項の場合よりも長くなります。
ただし、特別条項の場合でも、原則として以下のような上限規制を守らなくてはなりません。
- 時間外労働は年720時間以内(労働基準法36条5項かっこ書き)
- 時間外労働及び休日労働の合計が、複数月(2~6ヶ月のすべて)平均で80時間以内(同法36条6項3号)
- 時間外労働及び休日労働の合計が、1ヶ月当たり100時間未満(同法36条6項2号)
- 原則である1ヶ月当たり45時間を超えられるのは1年につき6ヶ月以内(同法36条5項かっこ書き)
月250時間の労働をしている場合、1ヶ月あたり約73~90時間の時間外労働をしていることになります。
毎月250時間労働が続けば、8~10ヶ月で「年720時間」のラインに到達しますし、そうなると「月45時間を超えられるのは年6回まで」という規制に引っかかり原則として違法となります。
月250時間労働と過労死ライン
月250時間の労働は違法であるだけではなく、過労死を招くリスクが高いという点でも問題があります。
過労死ラインの概要や、長時間労働によって起こりうる病気、そのリスクなどについて解説していきます。
(1)過労死ラインとは?
厚生労働省が発表した過労死等に関する資料によると、「長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関係性が強いという医学的知見が得られています」との分析がされています。
その上で、「脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。」という、実態に基づいて定められた労災認定基準も紹介されています。
このことから、時間外労働については、「発症前1ヶ月間に100時間」又は「発症前2~6ヶ月間平均で1ヶ月当たり80時間」というラインを超えると過労死等につながりかねないという意味で「過労死ライン」と呼ばれることがあります。
後者の基準に注目して、シンプルに「1ヶ月間当たり月80時間の時間外労働」のことを「過労死ライン」と呼ぶこともあります。
月250時間労働は、上記のとおり、28日の月の残業時間が90時間、31日の月の残業時間が約73時間となり、28日の月と31日の月とが連続する2ヶ月だけでも、「発症前2~6ヶ月間平均で1ヶ月当たり80時間」との基準に該当することになり、過労死等のリスクがあります。
もっとも、「月80時間」は目安に過ぎず、80時間以下でも病気になる可能性は十分に考えられます。月250時間労働は、31日の月でも約73時間とかなりの長時間の残業が前提となり、心身に対する影響は否定できず、過労死等のリスクがなくなる訳ではありません。
(2)長時間労働が病気や過労死につながる理由
長時間労働が病気や過労死につながる理由としては、以下のような分析がなされています。
- 長時間労働により、休息や睡眠の時間が削られることで健康被害のリスクが高まる。
- 家庭で過ごす時間やプライベートの時間も減ってしまい、疲労がさらに蓄積する。
- また、業務量の多さや高度な仕事で成果を要求される傾向があり、そうしたことからくる精神的な負担も疲労の蓄積や病気発症の要因になる。
こうして長時間労働は、脳や心臓の疾患・精神疾患の発症へとつながっていくのです。
(3)長時間労働で起こりうる病気
それでは、長時間労働が原因で起こりうる具体的な病気の内容について、以下で解説していきます。
(3-1)脳血管疾患・心疾患
長時間労働をすることにより、くも膜下出血、脳梗塞、脳卒中など、脳の病気を発症して、過労死に至る場合があります。
また、心筋梗塞などの虚血性心疾患も、長時間労働によって引き起こされうる病気のひとつです。
(3-2)うつ病・過労自殺
長時間労働でストレスが蓄積すると、うつ病などの精神障害を発症しやすくなります。
長時間労働のせいでうつ病を発症し、さらに自殺に至ってしまう事例もみられ、事の大きさから社会問題にもなっています。
(3-3)睡眠不足による事故
業種にもよりますが、長時間労働で睡眠不足になると、通勤や業務中に交通事故を起こしてしまう可能性があります。
過去には、入浴中に溺死したケースが労災認定されたこともあります。
月250時間の労働時間を減らす方法
このように、労働時間が月250時間にも達するような場合は、過労死等のリスクと隣り合わせにある危険な状況といえます。
そのため、労働時間を減らしていくことが重要となってきます。
労働時間を減らす方法としては例えば次のものがあります。
1. 毎月250時間労働が続いている場合、会社の上司と労働時間短縮について話し合ってみましょう。
2. 話し合いでの解決が難しい場合には、労働基準監督署に報告し、会社への改善指導を求めることが考えられます。
ただし、労働基準書は必ずしも調査・指導等をしてくれるわけではありません。会社に対する調査や指導をしてもらいやすくするために、少なくとも労働基準監督署への報告の際に長時間労働の証拠を提出することが必要です。
証拠についてですが、原則として、労働時間に関しては、タイムカードやPCの使用時間履歴等の客観的な記録が証拠となります。
客観的な記録を用意することが難しい場合でも、業務指示書やメール、研修資料や日報、オフィスビルへの入退館記録等も証拠として有用と扱われる可能性があります。
3. 労働基準監督署以外に、長時間労働を相談できる窓口としては以下のようなものがありますので、ご参考にしてください。
参考:労働条件相談ほっとライン|厚生労働省
参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省
4. 長時間労働だけでなく、残業代未払いなどの個別の問題を抱えている場合には、弁護士に相談・依頼するのも1つの手でしょう。
【まとめ】月250時間の労働は、原則として違法!過労死ラインを超える可能性も大!
今回の記事のまとめは次の通りです。
- 月250時間の長時間労働は、時間外労働の上限規制に違反し、違法である可能性あり
- 月250時間労働だと時間外労働が80時間前後に達することとなり、過労死ラインを超える可能性もあるため注意が必要
- 労働時間短縮については、会社と話し合う、労働基準監督署などの公的機関の窓口に相談する、弁護士に依頼するといった方法がある
月250時間にも達するような長時間労働でお悩みの方は、労働基準監督署などにご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。